アレクセイシリーズ

発狂! 闇鍋パーティー



「闇鍋をしよう」コタツに入って蜜柑を食べていたアレクセイが唐突にそう言った。
「闇鍋? いやですよそんなの。語感からして邪悪そうじゃないですか」 
 私は反射的にそう言った。基本的に、こいつは私が止めない限りどこまでも突っ走る奴である。だがその暴走に巻き込まれるのだけはごめんだ。
「まあまあ。実は、もう用意してあるんだよね」
 アレクセイはそう言いつつ立ち上がるとどこからともなくカセットコンロと鍋を取り出してコタツの上に置き、電気を消してしまった。
「電気点けて下さいよ。鍋を食べるのだって暗くちゃ何も見えません」私はそう抗議した。
「いや、暗いところで鍋をつっつくのがこれの醍醐味だよ。口に入れるまで味はわからないってね」
 いや、それはやばすぎるだろ。特にお前の場合。そう思ったが、仕方がないので渡された箸をとりあえず鍋に入れてみた。
 ちょうどいい大きさのなにかがあったので、箸でとって口に入れてみた。
「うーん、なんですかこれ。鍋に入っていたのにサクサクして衣がついているんですけど」
「ああ、それはミ=ゴの唐揚げだよ。見た目の割りにおいしいだろ?」
 げえええっ。やばいもの食っちゃったじゃないか。というか、食べられるんですかミ=ゴって。
 気を取り直して次のものを食べた。
「魚、入れましたか?」私は魚としか思えないものを食べながらアレクセイに聞いた。
「それ、きっと深きものだろ。まあ気に入ってくれたんならいいけど、私は嫌いだな……」
 道理で異様に生臭いと思った。というかまともな食材は入っていないのか。
「ところで、あなたは何食べてますか?」
「黒い仔山羊の腸詰。プリプリして美味いぞ」
 後で腹こわしても知らないぞ。そう思いつつ、私は今まで食べたことのなさそうなものをとって食べてみた。
「なんだかねばねばして、餅みたいなものが入ってますね」
「ああ、それはショゴスの一部だよ。ところで、私は今幼生クトーニアンの踊り食いしているんだが、これはたまらん」
 そりゃ絶対恨み買うって! クトーニアンの恨みは怖いんだぞ。大丈夫なんだろうか……。
「このバターみたいに柔らかいものってなんですか?」
「うーん、たぶんツァトゥグァの落とし子かなんかだろうな」
 もう嫌になってきた。ふと見ると、いつの間にか鍋のスープが淡い菫色に光っていた。
「もしかして鍋の出汁に使ったのは……」
「ああ、アザトースのかけらで出汁を取ったんだ。旨いかい?」
 な、なんだってえ!? それはやばい……やばいぞアレクセイ……。私の意識はそんなことをとりとめもなく考えながら闇へと滑り落ちていった。さようなら、私の正気……またいつか会う日が来るのだろうか。
 そこまで考えた時、私に慈悲深い忘却が訪れた。

 註:ヨハネスは結局正気を失わなかったので、アレクセイとヨハネスの話は続きます。
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